共同研究の歴史と成果


熱帯域のエコシステムマネージメントに関する研究
(2002年度~2006年度)

研究背景

熱帯域の森林生態系の劣化をくい止めるためには、法的整備、地元住民を対象とした健全な森林管理へのインセンティブの導入や、マーケットによる違法伐採のコントロールが効果的であるといえます。長期資源利用を目指した生態系の保全・管理 を目指すためには、生態系サービス機能を解析・整理したうえで、科学的な裏付けによる管理基準(評価指標)を設定し、森林認証制度やランドスケープ管理に対して、具体的にどのような提案が行えるかを十分検討する必要があり、現場の管理者が森林の状態を効率的に把握できるような科学的根拠に基づいた指標作りが急務であると言えます。

研究目的

上記の背景を踏まえ、熱帯林生態系がどのようなサービス機能を保持し、地域の環境保全の障害となっている要因はなにか、また地域内の各生態系の財としての価値を最大限に引き出すためにはどのような制度上の改革が必要なのかを迅速に検討できる環境管理プログラムの構築を早急に行うことを目的としております。本共同研究では、西マレーシアのモデルサイト(マレーシア、ネグリスンビラン州、パソ森林保護区)近辺における 生態系サービス機能を解析、整理した上で科学的な裏付けによる管理基準を設定し、森林認証制度やランドスケープ(景観)管理に対して提案を行うための 研究を行っています。

研究内容
森林認証制度支援のための生態系指標の開発に関する研究 多様性評価のためのラピッドアセスメント開発に関する研究 地域社会における生態系管理へのインセンティブ導入のための研究

熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究
(1999年度~2001年度)

研究背景

熱帯林の減少の背景には貧困に起因する収奪的焼き畑農法や森林資源を切り売りせねばならない地域の事情があります。さらには炭酸ガスのシンク、生物多様性の保全などグローバルスケールでの諸問題が混在しているようにも見えます。熱帯林を対象とした生物学的調査は80年代に入り多くの進展が見られましたが、蓄積されたデータが森林の持続的運用管理へ向けてどのように関連づけられるかを具体的に提言されることが少なかったため、熱帯林の「持続的管理」というスローガンが空回りしているように見えます。

研究目的

熱帯林保全のために有効なアプローチとして、1)炭酸ガス固定機能をはじめとするグローバル研究、2)森林の破壊を最小限にく止めるための施業・管理、修復技術の開発、3)多様性の維持機能を中心とした生物学的研究と啓蒙活動などを行います。近年の急激な熱帯林の荒廃や森林面積の減少の現状を鑑みれば、今一度、熱帯林の持続的運用を念頭に置いた森林の各機能の評価に立ち返り、それらをもとに森林の持っている公益機能が管理形態によってどのように変わりうるのかを早急に提示する必要があります。本課題では従来の生態学的アプローチを踏まえて持続的管理の最適化をはかるため森林の諸機能の評価を行うと同時にそれらをもとに、森林の経済的評価を試みることを目的としました。その上で、森林を含むランドスケープ全体の管理計画に取り組みました。

研究内容
森林の荒廃が生物生産機能及び物質循環系に及ぼす影響 二次林化及び森林の分断化が森林群落の動態及び野生生物の生態に及ぼす影響 森林の荒廃が多様性の維持機構に及ぼす影響 環境インパクトの少ない木材搬出手法に関する調査研究 森林の公益機能の環境経済的評価手法開発に関する研究

熱帯林生態系の解明(1996年度~1998年度)

1.熱帯環境林保全のための指標策定に関する研究

研究背景

熱帯林は重要な森林資源として着目されて,早くから択伐が行われてきましたた。しかしながら,択伐という人為的撹乱がどのように 森林構造や種組成に影響するのか,天然林に近い状態までに本当に回復するのか,回復にどれだけの時間がかかるのかは不明なままです。 従来の択伐方式が生物多様性や土壌の保全を含めた持続的な森林管理につながるかどうかは現時点では不明です。また森林減少をくい止め、 木材資源の持続的供給を目指して、早生樹種や外来導入種による再生が各地で行われていますが、こうしたモノカルチャー的育林によって成立した森林は、生物多様性の視点や地域の保全、森林資源の安定供給という観点から見ても、天然林の代替にはなりえません。こうしたことから、 近年在来種を用いた森林再生が試みられるようになりましたが、個々の種の生態的特性、地域種を含む森林群落内での種間の相互作用、及び 再生産様式など不明な点が多く、コストを抑えつつ持続的に森林経営が出来るまでのモデルプランの策定までには至っていないのが現状である。 さらに健全な熱帯林の保全を目指す場合、森林の遺伝的多様性についても十分配慮がされるべきです。そのためには林内の個体間の遺伝的関係、 遺伝子流動の距離、交配様式等を十分把握しておく必要があります。このような背景から、熱帯林群落のもつ潜在的な持続性、個々の種の生理生態的特性、再生産様式推定のための構成種の遺伝的多様性についての総合的な調査・研究が強く望まれているところです。

研究目的

(1)撹乱・非撹乱フタバガキ林の樹種構成や,個体群構造とその動態を明らかにする。
(2)天然林の復元を目指して構成種の生態的特性や、各種の群落動態の中での役割などを明らかにする
(3)天然林内で世代毎にどの程度遺伝的多様性が異なっているのかを明らかにし将来の遺伝資源の指標作りのための重要な情報を提供する。

研究内容
撹乱・非撹乱熱帯林の樹種構成に関する比較研究 撹乱環境下における熱帯稚樹の応答選択に関する研究 熱帯林内の構成樹種の遺伝的相関に関する研究

2.熱帯環境保全林における野生生物の多様性と持続的管理のための指標に関する研究

研究背景

熱帯林は地球上でもっとも生物多様性に富んだ特異な生物群集が成立している地域であると同時に,現在もっとも生物多様性が急速に失われている地域です。そして,熱帯地域は人間の活動が盛んな地域でもあり,天然林はすでにごく局所的にしか残されていません。熱帯林の生物多様性を維持・保全するための方策を打ち立てることは われわれの重要な責務ですが,この地域で生物多様性保存のために大規模な保護区を新たに創設することは現実には困難です。 この地域の貴重な生物多様性を将来にわたって保全するためには,ヒトによる撹乱が加わったさまざまなタイプの二次林に期待し,それを適切に管理するほかありません。二次林の大半は木材生産の場なので,林業活動が生物多様性に与える影響を評価し,最小化する必要があります。このためには熱帯林における野生生物の多様性とその動態を追跡し,熱帯林の保全管理に向けた持続的管理の手法を提案することが必要です。

研究目的

この研究は,多様性の高い自然林を核としながらさまざまなタイプの二次林を組み合わせ,地域として生物多様性を維持する方策を見いだすことを目的として,自然林とさまざまな二次林での野生生物群集の組成と動態を比較し,さらには,熱帯林の修復や再生の観点から重要な役割を果たすギャップにおける生物群集の動態及びそこに生育する樹木の再生過程と生物間相互作用を追跡することを通じて,熱帯林での生物多様性の維持と保全の手法,並びに持続的管理のための基準・指標を検討することを目的としました。

研究内容
熱帯林における哺乳類及び鳥類の群集構造と多様性の維持機構に関する研究 森林の人為的撹乱が昆虫群集の多様性に与える影響に関する研究 動植物の種特異的関係に基づく生物種の生態的特性の指標化に関する研究

3.熱帯林の環境保全機能の評価に関する研究

研究背景

現在,熱帯林の減少が進行しており,それが有する大気・水・土壌に対する保全作用が失われてゆくことが危惧されています。また,熱帯林の伐採などの攫乱による土壌乾燥や表層土壌の流出などの土壌劣化がおきた場合,土壌形成にかかわる諸要素が変質し,土壌の再形成や森林の再生が速やかに進まなくなる可能性があります。これに対処するためには,熱帯林における,微気候やエネルギー・物質の輸送,雨水の流出や土砂の流出の基礎過程を観測により把握するとともに,土壌形成過程に注目しながら熱帯林の土壌が攫乱から受ける影響を解明して行く必要かあります。

研究目的

本課題は,半島マレーシアのタワーなど基本設備のある熱帯降雨林試験地において現地調査を行い,熱帯林の環境保全機能の評価を目指します。サブテーマ(1)では,過去に択伐による撹乱のはいっている二次林と撹乱のなかった一次林において土壌動物や木材腐朽菌の調査を行い,これらの土壌形成にかかわる役割が摸乱によってどのように変化しているのかを評価します。また,サブテーマ(2)では,熱帯雨林・大気間のエネルギー交換特性を気象観測により把握して,熱帯雨林か気候形成に及ぼす影響を推定するとともに,熱帯林と開発ゴム園の土壌物理性などの水文調査に基づいて,熱帯林開発が流出特性に及ぼす影響を評価します。

研究内容
熱帯林における撹乱が土壌形成及び土壌構造に及ぼす影響の評価に関する研究 熱帯林の環境保全機能に対する撹乱の影響予測に関する研究

Page Top