熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究(1999年度~2001年度)
熱帯林の多様性保持機能を明らかにすることを目的として、
1)択伐が森林の林冠・林分構造と森林組成に及ぼす影響についての研究
2)低地熱帯林林内微気象に関する研究
3)熱帯林林冠構成樹種稚樹の葉群動態の種間比較研究
4)熱帯林における林冠構成種の繁殖に関する研究
5)類縁関係にある木本植物の分布の同所性および多様性の維持機構に関する研究を行った。
その結果、森林伐採によって林冠構造がより単調化する傾向にあること、また林分構造は中、小径木の個体密度が増加し、突出木層の形成が遅れていること、林床の光環境、温度、湿度の微環境は林冠ギャップの形成によって大きく影響を受けることがわかった。択伐後に成立する再生林ではギャップの形成が遅れる傾向があることから、林冠構造の変化が林床の微気象の変動へと 影響を及ぼすことが示唆された。また林床で生育する林冠構成種の稚樹の葉群動態はそれぞれの種の光要求性などの生理的特性と密接に関連していることが分かったが、林冠ギャップの頻度、大きさなどによって強く影響を受けることが示唆された。また、林冠構成種の花粉の交流範囲について マイクロサテライトを用いて解析を行ったところ、数百メートル以遠の親木個体より花粉が昆虫を媒介として運ばれていることが分かった。 さらに、同属近縁2種間で地形や土壌によるニッチェ分割の可能性について解析を行ったところ、 そうしたメカニズムが多様性を維持する上で大きく貢献していないことが分かった。これら一連の研究結果は、天然林の択伐によって、単に林冠、林分構造が変化するだけでなく、林床の光環境が変化することによる各々林床植物の生理学的特性が変化すること、さらに親木個体の密度の減少による、同種内での遺伝的隔離の増幅が起こりうること、また樹木の多様性はニッチェ分割などによる 平衡状態に基づいておらず、種子の流入、ギャップの形成など偶発的なイベントに基づいており、これらの一連のプロセスが森林伐採などによって、森林が本来もっている多様性の維持機能が大きく影響を 受けることを示唆するものである。