熱帯林生態系の解明(1996年度~1998年度)

撹乱環境下における熱帯稚樹の応答選択に関する研究


研究内容・成果

本研究では、撹乱環境下における熱帯稚樹の応答反応を把握するため、稚樹の移植から葉の生理生態および 生態特徴までの幅広い実験と測定を行った。まず、選択熱帯林を構成する21種の稚樹を放棄ゴム園へ移植し、その後の生長を上層木がない裸地区と上層木によって被陰された被陰区でと比較した。稚樹の生残率は概して 被陰区で高かったが、被陰区と裸地区との間で差が見られない樹種、または裸地区の方が高い生残率を示す樹種も見られた。

また、着生シダの種多様度を半島マレーシアの人為的撹乱のある場所と天然林で調査した。その結果、β多様度はパソー保護区内の10年を経過したギャップで最も高かったのに対して油椰子林では最も低かった。標高が高くなるにつれて羊歯植物の種数は増加した。これらの結果は、羊歯植物の多様度は立地条件によって影響されるものの、類似した立地条件の下では、人為的撹乱によって多様度が低下することを示しており、羊歯植物の種多様度が人為的撹乱の程度を表すための一つの指標になるのではないかと考えられる。

一方、稚樹の生理生態と形態特性については以下のような研究を行った。まず、熱帯林内の不均質な微環境下での稚樹の生理的反応を明らかにする目的で、Shorea parvifoliaを対象に林内の光や湿度環境が 光合成、蒸散などの生理反応に及ぼす影響について測定を行った。その結果、空気中の湿度は光合成反応、とくに光合成誘導反応に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。また、異なる生育段階のDipterocarpus sublamellatusについて葉の光合成特性と形態特徴を測定した。その結果、葉の生理特性と形態特徴は生育段階に応じて、大きく変化することがわかった。さらに、東南アジアの熱帯に普遍的に分布している先駆種、Macaranga giganteについては展葉過程が樹冠の受光効率の視点から解析された。古い葉ほど葉柄の長さと角度が大きくなり、葉柄の長さの成長と角度を調節することで、樹冠内の葉を効率よく配置し、相互被陰を回避していることも明らかになった。さらに、熱帯林の林内二酸化炭素濃度の垂直分布を経時的に測定することを試み、林冠内の二酸化炭素ガスの移動実態を解明した。

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