熱帯林生態系の解明(1996年度~1998年度)

熱帯林の環境保全機能に対する撹乱の影響予測に関する研究


研究内容・成果

熱帯林の環境保全機能とその撹乱への影響予測を行うために、マレーシアの2カ所の熱帯雨林試験地における観測研究を行った。 研究は大きく分けて、

1)Pasoh森林保護区の観測タワーにおける、長期気象観測、蒸発散を含むエネルギー交換推定
2)同タワーにおける二酸化炭素の推定
3)Bukit Tarek試験地の水流出特性、同試験地とゴム園での調査に基づく擾乱の土壌物理性変化への影響評価
4)伐採予定の流域における土壌断面及び化学性の調査に分かれる。

1)におしては、東南アジア熱帯雨林が気候に及ぼす影響解明に必要なエネルギー交換量を推定するとともに、その特性を解析した。 すなわち、森林群落のスケールにおいて、環境条件に対して気孔調節によってどのように蒸散を制御しているかについて、 そのモデルパラメータである群落コンダクタンスの日射と飽差に対する関係を明らかにした。 2)においては、渦相関法による二酸化炭素輸送量の観測を行い、短期間の観測ではあったが、二酸化炭素の吸収源を担っているという結果を得た。 3)においては、ゴム園に開発された場合、土壌の透水性が低下するなどによって、雨水流出特性か大きく変化することがわかった。 また、森林流域からの流出を降雨から予測するモデルを開発し、流出量及び土壌における雨水貯留量をともに良く再現できるという結果を得た。 4)においては、伐採予定の流域において、土壌の断面・化学性の調査を行い、Acrisols、Cambisolsが分布していることなどの結果を得た。 本課題におけるこれらの観測・調査結果は、熱帯雨林の環境保全機能を今後広くモデルによって予測するために、重要な基礎を与えるものである。

(考察) Pasoh森林保護区に設けられたタワーにおける気象観測、エネルギー交換量の推定、二酸化炭素吸収量測定の試みを行うとともに、 Bukit Tarek試験地において、熱帯林土壌の特性やその雨水流出に及ぼす影響を詳細な観測を基に検討してきた。

後者の流出に関する研究では、開発されたゴム園での調査を加えて、森林の水保全機能の高さを実証的に示してきた。 今後、試験地の3つの流域のうち2つの流域で森林か伐採・火入れされる計画があり、これによる土壌変化を調べるための 事前土壌の断面・化学性の調査も行ってきた。流出応答モデルの作成も行ってきており、今後の伐採の影響に対する調査研究が 期待されるところである。

前者のタワーにおける観測では、森林の気候や地域の水循環への影響解明に重要な蒸発散・エネルギー交換量の推定を行ってきた。 熱帯雨林では、かなりの乾燥かあっても蒸発散が減少しないとがいわれているが、比較的乾燥しやすいPasohにおいてどの程度の 乾燥かあれば蒸発散量の低下があるのかについて確実な解析結果を得るにいたっていない。また、伐採などが行われた場合には蒸発散の 低下が著しくなり、これが気候に及ぼす影響が大きいといわれているが、そのデータが今後求められる。さらに、短期間の観測により、 二酸化炭素吸収の貴重なデータが得られたのであるが、季節変化の乏しい熱帯雨林気候では数年の気候変動がとくに重要であり、 二酸化炭素吸収特性を定量的に把握するには、長期連続観測をぜひとも実施する必要性か高い。このような多くの課題を残してはいるが、 ほとんどデータのなかった東南アジア熱帯雨林での森林・大気間のエネルギー・水・二酸化炭素の交換量に関する情報か得られたことは、 本課題における大きな成果であったと考えている。

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