熱帯域のエコシステムマネージメントに関する研究(2002年度~2006年度)
森林管理の評価基準に生態学的根拠に基づいた簡便かつ、信頼性の高い生態指標を導入することを目的として、 森林の林冠構造などの相観的要素と、森林内の微気象、野生生物にとっての生息環境、樹木個体群の遺伝的多様性などの 関連性を明らかにするための研究を行います。
森林の更新や林冠木の繁殖に重要な役割を果たす林冠構造の劣化が森林内の遺伝子流動や遺伝的多様性に どのような影響を与えるかについて野外調査を行い、森林の相観(外観)の解析による遺伝的多様性評価指標の開発を行います。
これらをもとに森林の外部構造から生息する野生動物の生態や多様性の状況が把握可能な指標を抽出し、 森林認証制度による管理評価基準への取り込みをはかります。
本研究では、レーザープロファイラーを用いて、野生生物の分布を規定する森林の林冠構造や炭素蓄積機能に関する地上部現存量など、森林の持つ各種のエコロジカルサービス機能を迅速かつ広域で評価するためのシステム(スケールアップ技術)の開発を行った。その結果、以下のことが明らかになりました。
1) レーザー測量では、森林が鬱閉し、複雑な階層構造を持つ熱帯林においても、地表面高および林冠高を現地測量や空中写真判読と同程度の精度で測定でき、森林の多様性保全機能を規定する林冠構造を高精度に再現できます。
2) レーザー測量データをもとに算出した森林の三次元立体構造体積によって、森林の持つ炭素蓄積 機能が高精度に評価できるだけでなく、森林の生長量や年間当たりの炭素吸収量なども広域にわたって評価が可能です。
以上のことから、レーザープロファイラーを用いた測量によって、熱帯林における各種のエコロジカルサービスを迅速かつ広域に評価できると考えられました。
本研究ではフタバガキ科の遺伝子流動を把握するために、40ha プロットの構築を行いました。その正確性を期するために、一部の再センサスを行い、種同定、倒木等の調査を行いました。また、S.leprosulaで開発したマイクロサテライトマーカーを近縁種3種に適応したところ、系統的に遠い系統であるS.maxwellianaで適応できるマーカー数が少し少ない傾向が見られました。しかし、遺伝子流動解析には十分な数のマーカーが利用可能でした。2001年および2002年の一斉開花の際に収集した種子および発芽させた実生を用いて、フタバガキ科2樹種S. leprosulaおよびS. parvifolia で交配様式の調査を行った結果、S. leprosulaでは高い他殖率が見られましたが、S.parvifoliaでは一般的なフタバガキ科樹種よりも低い他殖率でした。小動物等による種子の持ち込みは、40ha と12ha で大きく異なり、個体密度がこの持ち込みに大きく関与していると考えられました。また断片化された森林の林縁部でも遺伝的多様性が減少している可能性が示唆されました。