熱帯林生態系の解明(1996年度~1998年度)

熱帯林における撹乱が土壌形成及び土壌構造に及ぼす影響の評価に関する研究


研究内容・成果

土壌形成過程に欠かせない植物遺体分解を担う木材腐朽菌とシロアリについて伐採による撹乱の影響を把握するために、 マレーシア半島部パソ森林保護区の低地熱帯雨林に調査地を設けた。樹種の判明した倒木(落枝・折れた木などを含む)の調査から、 そのサイズ・樹種・分解過程によりそこに発生する木材腐朽菌相が影響されることが明らかになった。集団的倒木の発生した地点で 倒木発生後の木材腐朽菌相を経時的に調べたところ、発生後数年で種数が急激に増加した後、減少することが明らかになった。 このことから、集団的倒木がしばしばおこる森林では木材腐朽菌多様性が高くなることが示唆された。自然林と再生林とで 木材腐朽菌・シロアリ分布状況の比較調査を行うために、各林内に100m四方の調査区を各1個設定し、倒木の寸法・位置を 記録して標識した。倒木は自然林に多く、またその直径も平均して自然林の方で大きいことが分かった。 木材腐朽菌調査を行ったところ、自然林の方が種数・頻度ともに出現量が多かった。強度の伐採により後の木材腐朽菌の 多様性か減少する可能性があることがわかった。倒木からのシロアリ採集種数は自然林で7種以上、再生林で6種であった。 キノコシロアリ亜科の1種Macrotermes malaccensisがどちらの林においても優占的に採集されたが、自然林の方が優先度か低かった。 倒木より細い材でも自然林の方でシロアリ採集積数が多く、種組成の多様性は自然林の方か高い傾向にあった。一方ではシロアリによる 植物遺体分解か樹木生長に与える間接的影響を検出するために、野外のシロアリを除去した区画で椎樹を植えて生長を測定し、 シロアリの入れる区画のそれと比較した。実験条件が未整備だったために実験は成功しなかったが、実験条件を検討した上で 対象シロアリを絞って再実験を行なう必要のあることか分かった。

(考察)
シロアリと木材腐朽菌が材の分解に重要な役割を果たしている事を前提に、熱帯林が伐採によって撹乱を受けた時にこれらの 生物も撹乱を受けて、それが逆に熱帯林の回復に影響することを想定して、まずこれらの生物か受ける撹乱の影響を評価し、 またこの影響から副次的に熱帯林生態系に及ぶ影響を評価しようとした。手法・労力の限界や研究計画の不備などかあって当初の 目的が充分には達成されなかったが、自然林では再生林よりこれら生物の多様性か豊富である事などが明らかとなった。

倒木の大きさ・樹種・分解程度・存在量によりこれらの生物の出現は左右されるか、伐採はこれら分解者の生息場所を消失させる ことであり、その生存にとって極めて悪い影響を及ぼし兼ねない。例えば、分解の進んだ倒木では出現する木材腐朽菌か変わってくるので、 少なくとも胞子の到達する範囲内に数年に1度以上の倒木が発生することが木材腐朽菌の地域個体群維持のための絶対条件と考えられる。 強度の伐採を行うと、その後数十年にわたり木材腐朽菌の多様性が低下、伐採面積が広大な場合には多数の木材腐朽菌遺伝資源か完全に 失われてしまうことも予想される。シロアリの場合は移動分散の能力か高いので状況は異なるか、伐採による生息量の低下は免れない。

このような分解者の生息量低下が材から発する養分の循環にどのように影響するかは今回の研究では評価することに失敗したが、 今後の研究の高度化によって解明しなければならない。熱帯林の場合、樹木の生長期間が長い上に種多様度が高く種組成の地理的変異が 高いために影響評価の時間軸及び地理的規模か大きくなることは避けられないが、長期的なモニタリングとともに、今回設定した 比較調査区に並ぶ程度の面積での実験的手法が研究の進展に大切であると考えられる。

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