熱帯域のエコシステムマネージメントに関する研究(2002年度~2006年度)
熱帯林の持つ様々なサービスを正確に評価するとともに、それぞれが地域社会とどのように結 びついているのかを把握するため、森林の持つ主要な6つのエコロジカルサービス(多様性保全機能、遺伝的多様性保全機能、木材生産機能、集水域保全機能、炭素循環・蓄積機能、および文化・レクリエーション機能)について、人為撹乱が及ぼす影響を整理・把握しました。
多様性保全機能の中でも森を健全に更新する上で重要な要素となる野生生物の送粉昆虫および種子散布者としての役割を調べたところ、多くの野生生物は天然林以外の森林を利用できず森林伐採や択伐に伴って植物種の分散が抑制されることが明らかとなり、このような人為撹乱に起因した森林の更新に関わる生物種の生態特性や機能の変化は、熱帯林の持つ生物多様性を低下させるだけでなく、他の様々なサービスの持続的な利用の可能性をも低下させることが示唆されました。
熱帯林生態系のエコロジカルサービス機能を考慮したエコシステムマネージメントを実現することを目標に、エコロジカルサービスの変動や将来的な環境リスクを予測するシミュレーションシステム「エコロジカルサービスGIS」を開発中です。一方で、マレーシア半島部の集水域にパイロットサイトを設置し、土地利用変化による土壌流出などのエコロジカルサービスの劣化やそれに伴う経済的損失額についても分析を行いました。その結果、現在開発中のシミュレーションプログラムは意志決定プロセスの透明化、森林資源などの現況情報の共有化などを推進する上で重要なツールになりうると考えられました。
これまで得られてきた森林生態系およびエコロジカルサービスに関するデータをもとに、実際の熱帯林修復事業(荒廃地植生のリハビリテーション)とのリンケージ、すなわちネットワークの形成を行いました。 まず、植栽樹種の選定のため、天然林で得られた毎木調査データと環境要因(土壌および地形)との対応関係を把握し、天然林性樹木種の生育地特性を把握した結果、多くの樹木種が特定の生育地への選好性を持つことが明らかとなりました。次に、得られた基礎データをもとに、植林予定地の環境条件や植栽樹種の市場価格、地域住民の要望などを考慮して9樹種(地域住民の要望種2種を含む)を選定し、実際の事業への支援を行いました。さらに、森林認証制度や京都メカニズムの一つである吸収源CDM活動などに対しても有益な支援を行うことができると期待されます。
パイロットサイト内の集水域において、地理情報システム(GIS)を用いたUniversal Soil Loss Equation (USLE)モデルにより、土壌流出量および栄養塩流出量を評価し、森林伐採などの土地利用改変が森林の持つ集水域保全機能に及ぼす影響について分析しました。最も土壌流出量の多い土地利用形態は樹木以外の各種耕作地(477ton/ha/yr)で、天然林で最も少い(12.1ton/ha/yr)という結果でした。また、栄養塩類の流出においては単位面積あたりの流出量は天然林で最小で、プランテーションなどの農地で最大でした。