熱帯域のエコシステムマネージメントに関する研究(2002年度~2006年度)
地域住民
ゾウ注意の標識
本サブテーマでは、森林をとりまく様々な社会集団間での、森林資源に対するアクセスや経済的・文化的・社会的ニーズの差異を明確にします。そのうえで、社会集団間の資源利用をめぐる利害関係の折衷案を探るだけでなく、それぞれの社会集団で、どのようなインセンティブが与えられれば長期の持続管理が可能なのか、経済・社会構造の社会学的分析と参与観察(調査者自身が、研究対象とする共同体の生活に参加して行なう現地調査法)やインタビューによる人類学的現地調査を併用することにより、明らかにします。さらに、他のテーマで行う定量化・指標化の作業とすり合わせを行い、最終的には、総合的な管理指針の提言を試みます。
パイロットサイト内に居住する原住民オランアスリは、歴史的にも今日的にも、もっとも森林との関わりの深い民族とされています。このオランアスリ集落の社会構造(森との関わり、生業など)を調査し、マレー系農村集落との比較によって、オランアスリの人々の生業構造や文化・経済・社会構造、森林との関わりを明らかにしました。
その結果、マレー系農村集落では、都市への人口流入の結果、農村地域社会は高齢化・過疎化し、かつての小農によるゴム栽培というマレー農村の特徴は失われつつあることがわかりました。この流れの中で、オランアスリの生業構造は、ロタン採取や樹脂採取など森林に強く依存したものから、かつてのマレー農村を彷彿させるような、家族労働によるゴム・アブラヤシ栽培へと変遷していたことが明らかになりました。
一方、森林産物採取の占める経済的な役割は小さくなっていますが、相対的に文化的意味は比重を増していることも確認されました。例えば、散在する残存林で吹き矢による狩猟が行われていることをしばしば観察しましたが、これらの活動は経済 的理由ではなく文化的理由、すなわちオランアスリとしてのアイデンティティ維持のためと考えられました。
今回の調査結果を通じて、エコシステムマネージメントへのインセンティブ導入を図るためにはまず、「森の民」の文化・知識を積極的に活用する政策・制度・環境を整え、健全で自立的な地域社会の形成を促すこと、さらに科学的立場からの支援(文化の保全や伝達方法、情報メディアの提供方法、知識の地域社会での共有方法の検討など)を行うことが、地域社会による森林管理への効果的なアプローチになるのではないかと考えられました。