用語解説
紫外線について
太陽からは様々な波長の光 (= 電磁波) (図3) が放出され、大気中の諸物質との種々の過程 (吸収・散乱) を通して地上に到達します。地上に到達したその光をその波長の違いによって、大きく紫外線、可視光、赤外線と分けて呼んでいます。そのうち可視光は人間の目で見ることができますが、それ以外は人の目では光として認識できません。地上に達する 290 nm ~ 400 nm の波長域の電磁波を紫外線と呼び、そのうち波長域が 290 nm ~ 320 nm の紫外線をB領域紫外線 (*1) といい、 320 nm ~ 400 nm の紫外線をA領域紫外線と呼んでいます。
B領域紫外線は、人体などに強い影響力を持つ紫外線とされています。この領域の紫外線は大気中のオゾンによって強く吸収され (図4)、地上にはごく一部しか到達しませんが、化学的な作用が強く、生体系にも影響を与えています。世界的な規模でいわゆる"フロンガス"が大量に消費された結果、1980年代にオゾン層破壊が顕在化し、そのことによって皮膚がんなどの人体に有害な紫外線が増加することが危惧され、その有害性に関する多くの研究が推進されました。その結果、かつては健康のシンボル的な存在であった日焼けは一転し、また、皮膚に対する美容上の観点から、多くの人々が極力紫外線を避けるようになりました。
- (*1)
- 290 nm より短い波長域の電磁波はC領域紫外線と呼び、人体に強く反応し非常に有害ですが、大気中のオゾンによって強く吸収され、私たちの生活空間には到達しにくくその量は無視できます。また、B領域紫外線の波長範囲の国際的な定義は、280 nm ~ 315 nm としていますが、国または専門分野によっては変化する場合があります。人体に対する影響などを考慮して、日本では 290 nm ~ 320 nm が一般的に使われています。
有害となる紫外線量
人体への過度の紫外線照射は、その蓄積によってさまざまな悪い影響 (*2) を及ぼします。ここでは平均的な日本人の肌に対して、肌に紅斑を生じさせる最少の紫外線量としてのMED (最少紅斑紫外線量 ; Minimal Erythema Dose) に到達する時間を示しています。この紫外線の多くはB領域に存在しますが、一部A領域にも含まれます (CIE作用曲線参照)。したがって、本ページでは、それぞれの観測サイトにおいて必要なビタミンD生成のための日光照射時間を示すと同時に、「特に皮膚が炎症を起こす最少の時間を示し、それ以上の日光照射は避けたほうがいい」というための目安も示しています (但し紫外線の人体に対する有害性は、スキンタイプ、日光過敏症、色素性乾皮症など個人差があります)。
なお、皮膚の露出面積を広げた場合は、ビタミンD生成量は皮膚面積に応じて増加しますが、紫外線の皮膚に対する影響は、日光照射した皮膚に対して影響し、露出面積を広げてもその皮膚に対する影響は同じです。したがって、一定の時間でより多くのビタミンDを生成し、有害性を低減しようとすれば、なるべく多くの肌を露出させることが有効です。
- (*2)
- 日光角化症、皮膚がん、しみ、しわ、免疫力低下、白内障など
ビタミンDを生成する紫外線について
紫外線は、人体に有害な成分を多く含む一方で、太陽光に紫外線があることによって、人類は健康を維持してきたと言われています。すなわちB領域紫外線はCIE作用曲線にしたがって体内でビタミンDを生成することができるからです。ビタミンDは必須のビタミンですが、肉類や植物起源の食糧は、一部のきのこ類を除いてほとんどビタミンDは含まれていないため、高緯度に住む人々は、太陽高度が低く、低・中緯度に比べて相対的に少ないこの紫外線を体内に多く取り入れるため、「メラニンの生成を抑制し肌の色を薄くした」「あるいは肌の色の薄い人々のみが現存した」とも言われています。また、低緯度に住む人々は紫外線が豊富なためビタミンDは十分に体内で生成され、なおかつ有害な紫外線から身を守るために色素量を増やした (皮膚の色を濃くした) と考えられています。
ビタミンDは人類の生存のために血液中のカルシウム濃度を一定の濃度に保とうとする働きを持ちます。このことによって食物からカルシウムの吸収を促進したり、また、成長期におけるくる病など防止し、正常な骨格の形成を促し、成人に対しては骨量維持を促進し、骨軟化症などの骨の形成異常症を防止することが期待されます。最近では大腸がん、乳がん、前立腺がんなど種々のがんに対する予防効果があるという多くの報告もあります (文献6、11、19)。
日本人のスキンタイプ
本ホームページで示している速報値は、日本人に最も多いといわれている肌のスキンタイプとして、国際標準の肌が国際標準のスキンタイプⅢの場合について示してあります。平均的な日本人は、必ずしも国際標準のタイプに分類できないとする報告もありますが、おおむね比較的色の白い人をⅡ、平均的な色の人をⅢ、比較的色の濃い人をⅣ (下の表を参照) としています。それ以外についてはそれに見合った対策が必要となります。
スキン タイプ |
MED (J/m2) |
補正係数 | UV Index8 の場合(分) |
肌の色 (非露出部) |
反応 |
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ | 200 | 0.67 | 17 | ||
Ⅱ | 250 | 0.83 | 21 | 白 | 赤くなりやすく、 黒くなりにくい |
Ⅲ | 300 | 1.00 | 25 | 白 | 適度には赤くなり、 IPD (*3) により徐々に色が付く |
Ⅳ | 450 | 1.50 | 38 | 薄色の茶 | 赤くなりにくく、 IPDによりすぐに色が濃くなる |
Ⅴ | 600 | 2.00 | 50 | ||
Ⅵ | 1000 | 3.33 | 83 |
世界気象機関 (WMO) は紅斑紫外線量を一般の方々に理解しやすくするために 25 mW/m2 を1単位として指数化し、それをUV Index (UVインデックス) と定義しました (文献2、4、30)。国内においては、地域にもよりますが夏季の晴天日、正午付近では最大 8 ~ 12 ほどにもなります。世界保健機構 (WHO) は、この紫外線を浴びた場合に24時間後に日焼けし (*4) 皮膚が赤くなって、炎症を起こす (紅斑 : Sun burnといいます) 最少の紫外線量をMED (Minimal Erythma Dose) と定め、紫外線に対して敏感な皮膚の人 (国際標準とされるSPT (Skin Photo Type) : Ⅰ) の場合、有害紫外線のエネルギーは 200 J/m2 としています (文献2) 。日本人に最も多いのはSPTに分類すると、おおよそSPT : Ⅲ になると考えられ、MEDは 300 J/m2 になるとされます (表1参照、文献14、15) 。
夏のUV Indexが8の時は、25分で炎症を起こすことになると計算されます。紅斑を起こした人はその後1週間後に遅延型黒化現象、日焼け (*4) (Suntan) を起こし、長期にわたって色素が沈着します。また、その反復により種々の皮膚影響が発生する恐れが生じます。
この情報については日本人の一般的なSPTをⅢとし、MEDの有害紫外線量を照射した場合に人体に影響が発生するとして取り扱うこととしています。日本人の多くは SPTに分類するとすればⅡ~Ⅳに相当すると考えられます。SPT : Ⅱの場合には 250 J/m2、SPT : Ⅳでは 450 J/m2 でMEDになって、それぞれ皮膚に炎症を起こすことになると計算されます。したがって自分の肌のタイプについてあらかじめ知っておく必要があります。本人の肌の色(通常露出しない部分の肌の色)を勘案し、対応することが必要です。
スキンタイプは通常メラニンの色素の量によって決められます。したがって体内で生成されるビタミンDは体内に紫外線が入り込む量によって決められると考えられ、ビタミンD生成紫外線、紅斑紫外線とも照射時間の計算で、SPT : ⅡはSPT : Ⅲの0.83倍の時間、またSPT : Ⅳの人はSPT : Ⅲの人の1.5倍の時間が目安となります(文献1、17)。このようにして、速報値に掲げた時間は個人の肌の色に合わせて読み替える必要があります。
- (*3)
- IPD (Immediate Pigment Darkening) : 即時型黒化現象。おもにUV-Aによる一時的な皮膚の黒化現象で、短時間 (数時間から数日) で皮膚の色が濃くなる現象。この場合、比較的短時間で元の状態に戻ります。UV-Bによる長期にわたって皮膚の色が戻りにくい遅延型黒化現象とは異なります。継続的に即時型黒化沈着をくりかえすことによって、持続的に長期間色素沈着がおこることがあります。
- (*4)
- 日本では紫外線によって皮膚が赤くなる現象も、色素沈着による黒化現象も同じ「日焼け」という言葉を使っています。
必要なビタミンD量
厚生労働省の調査によりますと、ビタミンD不足による障害のない日本の成人は、ビタミンDを食物から 5.5 µg 摂取しているとし、これを食物からの摂取目安量としています。ただしこれらの人々は日常生活の中で自然に (または意識的に) 紫外線に当たっていて、食物からの摂取とは別に、体内である程度のビタミンDを生成していることを考慮する必要があります。したがって個人の場合には食物からの摂取量を考慮して必要な日光照射時間は変わるものと考えられます。日本人が必要とする1日当たりのビタミンD量は明らかではありませんが、外国人を対象とした外国の文献によると1日当たり最低で15 µg という報告があります(文献11、15) (医学関連では、年齢によりますが、10 ~ 25 µg/日 という考え方もあります)。もし食物から 5.5 µg を摂取しているのとすれば、日光照射で補うとすればほぼ 10 µg のビタミンDを体内で生成する必要があります。ここでは 10 µg にかかる時間を計算しています。もし 15 µg のビタミンDを生成しようとするならば、照射時間を1.5倍にするか、皮膚の露出面積を1.5倍相当にすることで達成できます。必要以上に生成されたビタミンDは相当期間 (半減期20日間程度) 体内に保存されることも知っておく必要があるでしょう。
日光照射の条件
この紫外線量とは、地上において水平な一定面積に照射する放射束密度 (エネルギー) をいいます。言い換えれば露出した皮膚の一定部分を天空に向けたときのその皮膚が受ける紫外線のエネルギーと、考えてよいでしょう。日常生活の中で、多くの人々は顔と両手は季節を問わずに外部に露出しています。そこでこの情報では、顔と両手の甲を水平に置いた場合に、その面積を 600 cm2 として計算しています。さらに、両腕、足などの部分に照射し、面積を2倍にすれば必要なビタミンD量に対して照射時間はさらに半分に、4倍にすれば4分の1に短縮されることになります。もし、全身浴などをした場合には、その時間は大幅に短縮されることになります。その場合MEDに到達する時間は変わりません。
実生活の中では必ずしも顔、手の甲を上に向けている姿勢は取りませんが、それに準じて紫外線を太陽光にあてることとしています。これら紫外線の中で、人体に影響を及ぼすB領域紫外線の波長域では、空気分子による散乱成分が卓越し、空のどの方向を向いてもやってきます。東京板橋での観測によると (文献29) 、B領域紫外線の散乱成分は、晴天日の一日のうち太陽天頂角の最も小さくなる (太陽高度が高くなる) 時間帯の正午において 60 ~ 80 % を示しています。この割合は大気の濁り具合 (混濁度) 、太陽天頂角 (太陽高度角の補角) などによって変化します。同じ日でも太陽天頂角の大きくなる (正午付近を除く) 午前、午後についてはさらに散乱成分の割合が大きくなることに留意する必要があります。しかしながら晴天の場合は、やはり太陽の周辺方向からくる割合は多くなるので、日光照射する場合にはそのことも念頭に置いて対応することも必要です。
なお、観測データは下向きの紫外線量を測定しています。芝生などの植生の紫外線の反射率は非常に少なく、通常は考慮する必要はありませんが、海辺の砂などは反射の影響がある場合があります。この場合、別途、上向きの紫外線による照射も考慮しなければなりません。特に雪面は反射率が高く新雪などは90%以上もあって、上からくる紫外線に加えて下からくる紫外線も考慮する必要があります。
食物からのビタミンDの摂取について
ビタミンDはビタミンD2からビタミンD7まで6種類あります。しかし、体内で効果的に作用するのは、そのうちビタミンD2とビタミンD3です。ビタミンD2は一部のキノコ類に多く存在しますが、通常の食事の材料となる穀物、果実、海藻、野菜類には事実上含まれていません。また、大方の肉類についても含有量は非常に少なくこれらの食事からの摂取は期待されません。
しかし、多くの魚類には、その種類によってその含有量は異なりますが、ビタミンD3が豊富に含まれているので、魚類を摂取することによって、ビタミンDを十分に体内に取り入れることは可能です。
魚類を十分に摂取していない方々で、特に必要以上に紫外線を回避している母親の母乳栄養児、また、寝たきり、外出を好まないお年寄り、さらに紫外線を極端に回避している女性などは、ビタミンD不足による弊害が生じかねません。紫外線と上手に付き合うことや、場合によってはビタミンDの補給剤の服用も必要でしょう。
食品 | 含有量 (µg/100g) |
---|---|
しろきくらげ(乾) | 970.0 |
きくらげ (乾) | 435.0 |
カツオの塩辛 | 120.0 |
アンコウの肝 | 110.0 |
しろきくらげ(ゆで) | 93.4 |
しらす干し (半乾燥品) | 61.0 |
まいわし (みりん干し) | 58.0 |
まいわし (丸干し) | 50.0 |
たたみいわし | 50.0 |
身欠きにしん | 50.0 |
イクラ | 44.0 |
きくらげ (ゆで) | 39.4 |
白さけ(焼) | 39.4 |
紅さけ(焼) | 38.4 |
うなぎ (蒲焼) | 19.0 |
さんま (焼) | 15.3 |
まいわし (焼) | 10.2 |
たらこ (焼) | 10.1 |
卵黄 | 5.9 |
くろまぐろ赤身 (生) | 5.0 |
真あじ (焼) | 1.9 |
豚 (肝) | 1.3 |
バター | 0.9 |
牛乳 | 0.3 |
鶏 (肝) | 0.2 |
豚ロース (脂身) | 0.2 |
豚ロース (赤身) | 0.1 |
牛ロース (赤身) | 0.0 |
牛ロース (脂身) | 0.0 |
牛 (肝) | 0.0 |
鶏 (ささみ) | 0.0 |
卵白 (生) | 0.0 |
エビ | 0.0 |
イカ | 0.0 |
タコ | 0.0 |
カニ | 0.0 |
アサリ | 0.0 |
カキ | 0.0 |
体内でビタミンDが生成されるメカニズム
体内では、アセチルCoAから、スクワレンなど種々の代謝反応を経て、肝臓や皮膚でコレステロールが合成されます。その過程の中で、7-デヒドロコレステロール (プロビタミンD3) が皮膚などで生成され皮膚に蓄積されます。ここに太陽光 (紫外線) があたるとプレビタミンD3に変化します。さらに体内の熱代謝によってビタミンD3が生成され、肝臓で25-ヒドロキシビタミンD3に変異し、腎臓で活性化されて、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3へと代謝され、ビタミンDとして効果を発揮します (図5)。
( ビタミン総合辞典より作成 )