全国環境研協議会による酸性雨調査
全国環境研協議会酸性雨調査の歴史
地方自治体の環境研究所を会員とする全国環境研協議会(以下「全環研」)では、日本を網羅する酸性雨全国調査を1991年度から共同で実施しています。
日本で酸性雨が認識されたのは、1970年代に関東地方に酸性度の強い雨が降り、多くの人に目の痛みなどの健康被害や農作物への被害が発生したのが最初でした。これを受けて、全環研の関東支部で調査に取り組み、1980年代後半には全国の各支部でも調査が行われるようになりました。その後、調査方法を統一し、共同で解析や報告を行う全環研酸性雨全国調査が始まりました。
この調査は表1に示すように、第1次から第3次までは3カ年間調査し、その後1年かけて解析を行うといった4年毎のサイクルで行われてきました。第4次調査は2003–2005年度の予定でしたが、近年、中国におけるSO2やNOXの排出量が急増する傾向にあることなどから、2008年度まで3年間延長しました。図1に酸性雨捕集装置の一例、図2に第4次調査の湿性調査地点を示します。
現在は、これまでの調査に加え窒素成分のより高精度な沈着量の把握やバックグラウンドオゾン濃度の把握などを主眼に第5次調査に取り組んでいます。
項目 | 調査年度・地点 | 調査手法 | 成果 | |
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第1次 | 降水成分 | 1991年度158地点 1992年度140地点 1993年度140地点 |
ろ過式採取法(バルク採取)による1週間単位の試料採取 | 環境省の調査を後追いする形で実施したが、多くの調査地点が参加することにより、きめ細かなデータが得られた。また、シミュレーションモデル開発の基礎資料ともなった |
第2次 | 降水成分 | 1995年度52地点 1996年度58地点 1997年度53地点 |
バケット(バルク採取)による1日単位の試料採取 | 日単位のデータを元に、流跡線解析を行った。その結果、硫酸イオンを多く含んだ降水は、中国や朝鮮半島、桜島及び大都市周辺を経由している例が見られた。また、カルシウムイオンを多く含んだ降水がモンゴルや中国北東部を起源とする場合が多かった |
第3次 | 湿性沈着 | 1999年度47地点 2000年度48地点 2001年度52地点 |
降水時開放型捕集装置による1週間単位の試料採取 | 世界標準の降水時開放型捕集装置(ウェットオンリーの装置)が採用され、原則週単位の測定が行われた。また、2000年の三宅島噴火の影響が観測された |
乾性沈着 | 1999年度25地点 2000年度27地点 2001年度29地点 |
フィルターパック法(FP法)による1週間単位の試料採取 | 環境省やEANETに先んじて4段ろ紙を用いたフィルターパック法(FP法)によるガス及び粒子状成分の測定を始めた。また、乾性沈着量の評価も試みた | |
第4次 | 湿性沈着 | 2003〜2008年度 57〜62地点 |
降水時開放型捕集装置による1週間単位の試料採取 | 世界標準のウェットオンリーの装置を用い、乾性沈着と合わせた合計の沈着量評価を行った |
乾性沈着 | 2003〜2008年度 28〜35地点 |
FP法によるガス状及び粒子状成分調査。1週間単位の試料採取 | FP法で測定したガス状及び粒子状成分濃度から、乾性沈着速度を算出するプログラムを共同開発し、乾性沈着量の評価を開始した | |
2003〜2008年度 34〜61地点 |
パッシブサンプラーによるガス状成分調査。月単位の試料採取 | 電源を必要としないパッシブサンプラーは、簡易なガス状成分の測定方法として導入が進んでおり、全環研による調査解析方法の検討結果が注目されている |
酸性雨調査の今 —第5次調査以降—
酸性雨調査は、降水のpHを調査するだけのものではありません。降水中に含まれる各種イオンのほか、空気中を漂うガス及び粒子状物質の測定も行っています。(表2)
これらのデータからは広域的な汚染物質の移動状況や各地域における汚染物質の沈着量など、様々な解析結果が得られており、全環研会誌や大気環境学会などの場を通じて広く情報提供しています。
調査目的 および特徴 |
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調査項目 | 第5次調査では下記の優先順位に従って解析しようとしている
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調査地点 2009年度〜 |
湿性沈着 | 69地点 | |
乾性沈着 | フィルターパック法 | 31地点 | |
パッシブ法O式 | 41地点 |