観測結果アーカイブ
2015年夏調査
2015年は、5月下旬、8月下旬の2回、合同観測を行いました。2015年の冬は、例年になく暖かく、摩周湖は2015年も結氷しませんでした。冬場に冷やされた湖水が、春になって水温が上昇するとともによく混ざって均質になることは、例えば化学物質濃度の解析に役立ってきました。湖水が十分に混ざらないと、深い水深の水が停滞するため、底層の酸素濃度の低下や種々の物質の蓄積が生じる可能性があります。プランクトンの組成や透明度への影響も考えられます。このような湖水の循環の変化は、摩周湖だけで起きるわけではなく、温暖化現象によって広く生じることが懸念されています。このようなことから、2013年の夏からは、水温計を多数配置して、今後の変化に備えた観測体制を強化しています。
また、2014年に湖底まで水中カメラを下ろして水中や湖底の様子を観察したところ、ライトに照らされた白い粒子が湖底にいたるまで多数浮かんでいる様子が観測されました。それに加えて、水深210 mの湖底堆積物の上には規則的な模様が見つかっています（図1）。摩周湖には、ニジマスなど3種の魚類のほか、ウチダザリガニが生息しています。深い水深までザリガニが移動してきているのか、その生態や化学物質の濃縮の程度など、興味が尽きません。2015年の夏には、生物の捕獲を試みましたが、残念ながら何も採取できませんでした。
2015年10月21日には、これまでの調査で最も低い12.8 mの透明度が観測されました。例年は、10月ごろにはプランクトンの量も減り、透明度は比較的高い値が得られています。実際に、植物プランクトン量の指標となるクロロフィルの濃度の最大値は水深40 m以深にあり、クロロフィルと濁度の分布は異なっています（図2）。一方、摩周湖の水位は、これまで30年間の観測の中でも高い状態に推移しており、波によって火山灰質の湖岸壁が浸食されている可能性があります。2015年秋の低い透明度は、生物による光の吸収・散乱よりも、濁度として表れる土壌粒子のような無機粒子の影響が考えられます。今後、水位が高い状態で安定するか、元の状態に回復するかなど、透明度の推移とともに、今後も観測を続けてまいります。
図1 摩周湖の湖底に見つかった規則的な模様
（棒状のものは、30cmの物差し）
図2 2015年10月のクロロフィルと濁度の深さ分布
2014年夏調査
2014年は、５月下旬、８月下旬の２回、合同観測を行いました。2014年の春、道東の冷え込みがきびしかったのですが、摩周湖は結氷しませんでした。結氷しない年には、例年ならば５月上旬ごろから春の湖水の循環が起きることが一般です。湖水がよく混ざってリセットされることは、例えば化学物質濃度の解析に役立ってきました。湖水が十分に混ざらないと、深い水深の水が停滞するため、底層の酸素濃度の低下や種々の物質の蓄積が生じる可能性があります。プランクトンの組成や透明度への影響も考えられます。このような湖水の循環の変化は、摩周湖だけで起きているわけではなく、温暖化現象によって広く生じることが懸念されています。このようなことから、2013年の夏からは、水温計を図1の左側の●で示したように多数配置して、今後の変化に備えた観測体制を強化しました。
2014年は、12月末の湖水の循環、5月の循環ともに例年よりも時期が遅くなっています。調査を行った５月下旬には、湖水は水深150ｍ程度までしか循環していませんでした。８月になって回収した表層から水深211mまでの温度計の係留結果（図1）を見ると、６月上旬に水深200までの湖水温がすべて等しくなりましたが（図1の拡大図）、すぐに表層水温が上昇をはじめていました。つまり、2014年に関しても、結氷した2013年と同じように春の湖水の循環は不十分だったことになります。
また、2014年は湖底まで水中カメラを下ろして水中や湖底の様子を観察しました。それによると、湖底にいたるまでライトに照らされた白い粒子が多数浮かんでいる様子が観測されました（図2）。これらの粒子は、プランクトンの死骸など、いろいろなもので構成されていると考えられます。これらが、水中から栄養分を除去して湖底に運んだり、また、湖底から再度栄養分を湖水に戻すなどの働きをしていると考えられます。これまで、主に溶けていたり、浮かんでいたりする成分に着目していましたが、沈み込む成分についても調査を進めて行きたいと考えています。
図1 2013年から14年にかけての湖水温の変化
図2 最深部の水深200ｍで観測された巨大粒子
（帯状にみえるのは、ロープの反射光）