用語集
松浦武四郎
松浦武四郎[1818-1888]は安政2年(1855)から江戸幕府の命を受け蝦夷地の調査を行いました。「山川地理取調紀行」の中の「久摺日誌」に安政5年(1858)に摩周湖を訪れた事を記しています。4月6日に摩周外輪山を一周して摩周湖岸にあるホロ(洞)で一夜を過ごした記録が残っています。
阿寒摩周国立公園
阿寒摩周国立公園は昭和9年12月4日に日本で2番目に指定された国立公園です。総面積9,1413ヘクタール、1市10町にまたがり、摩周湖・屈斜路湖・阿寒湖のカルデラ湖と、森と火山からなる原始的景観が特徴の公園です。2017年8月に阿寒国立公園から、現在の阿寒摩周国立公園に改称されました。
国立公園特別保護地区
自然公園法によって定められた国立公園内の風致保護のレベルのひとつです。普通地域、第三種、第二種、第一種特別地域、特別保護地区の順に、保護のレベルが高くなります。摩周湖の外輪山の内側はすべて特別保護地区に指定されており、立入、底質・落葉を含む植物の採取、動物の捕獲、物の集積には、たとえ研究目的であっても環境省の許可が必要です。
カルデラ湖
カルデラの語源はスペイン語に由来し、鍋、釜などの形状に似た火山性の地形を指します。詳しく分類すると、カルデラには陥没、爆発、侵食の3種類があります。火山噴火後、山体内のマグマの空洞部が陥没し、形成された窪地を陥没カルデラと言い、このカルデラ内に水が貯えられた湖をカルデラ湖と呼んでいます。摩周湖もカルデラ湖の1つです。近くにある屈斜路湖は、日本最大のカルデラ湖です。
閉塞湖
摩周湖のように、流入、流出する河川を持たない湖を指します。火山の火口やカルデラに水をたたえている湖沼に多く見られます。通常の閉塞湖は、水位が上昇すると湖岸線付近から急激に漏水し、水位が維持されるため、水位変動が小さい特徴があります。河川がないので自然の状態では魚は生息していません。
カムイシュ島
カムイシュ島(中島)は摩周湖に浮かぶ唯一の島です。カルデラの中に生じた小さな火山(中央火口丘)がわずかに水面に顔を出しているものです。北海道にはさまざまなアイヌ伝説がありますが、摩周湖にも老婆が中島になった話として「摩周湖の老婆の話」伝説が残されています。
セッキ板
透明度を測定するための円盤をセッキ板(透明度板)と呼びます。セッキ(Secchi)は、19世紀にこの用具を作ったイタリア人の神父の名前です。日本では30cm程度の直径の白色円盤を用いることが多いのですが、径の大きさが異なるものや、白色と黒色で4分割されたものなど、バリエーションがあります。
セイシュ(静振)
静振は、湖上空の風や気圧の変化、河川流入量や流出量の変化、湖面への降水量の位置的な差異などによって生じる湖水面水位の振動のことです。振動の周期は湖沼の大きさ、風の強さなどによって決定されますが、一般に琵琶湖のように大きな湖沼では4時間程度です。
測地系
今、我々が地球上のどこにいるのか、これを正確に求める時に役に立つのがGPS(全地球測位システム)です。近年は車のナビゲーションに利用されていることから価格が下がり、一般的になってきました。このGPSで使用される地図上の位置を示す数値が測地系と呼ばれています。今までは各国が独自な基準点を設け、そこから国内の緯度経度を決定したため、国によっては全地球的な測地系とはずれている場合があります。日本も明治時代に決定した独自の測地系を使用していましたが、2002年4月より、測量法が改正され、世界的に決められた世界測地系(WGS84)を使用するようになりました。本データベースでも、過去の地点情報を世界測地系に変更しています。
躍層
湖水の温度は全層で一定ではありません。例えば、夏季は表面の水温が高く、深層では低くなります。異なる水温の水は、その密度も異なっています。そのため、密度の異なる表層と深層の水は容易に混ざりあいません。このような状態を成層していると呼び、表層と深層の間の水温が大きく変化する部分を躍層と呼びます。躍層は、水温ばかりでなく、化学的な成分が溶け込むことによっても生じます。摩周湖では、夏・冬の成層時期と、春・秋の水が混ざり合いやすい循環時期とがあります。結氷のあり・なしを含め、湖水の循環は物質や熱の移動を考える上で、非常に重要な要素です。
吸収係数
光がある物質を通過する際にそのエネルギーの一部が物質へ移動し、通過後の光が弱くなります。この光が弱くなる程度を表しています。移動後のエネルギーは主に熱に変わりますが、植物プランクトンが吸収したエネルギーの一部は、光合成に利用されます。
減衰係数
湖水中に入射した光は、湖水に存在する様々な物質により弱められたり、色々な方向へ散らされたりしつつ、進んでいきます。光は様々な方向に進みますが、これらの光全体がある方向(例えば下向き)において、距離とともに強さが変化していきます。この変化の程度を表しています。吸収係数は、個々の物質の特性ですが、減衰係数は様々な物質を含めた湖水全体の特性を表します。
栄養塩
植物プランクトンの栄養になる物質。欠乏しやすい窒素やリンの濃度が重要視され、それらの濃度が高い湖沼を富栄養湖、低い湖沼を貧栄養湖と呼びます。摩周湖は貧栄養湖よりも栄養分の少ない極貧栄養湖です。
クロロフィル
植物の葉緑体に存在する光合成色素。クロロフィルa、b、cがあり、全ての植物プランクトンがクロロフィルaを持つことから、水中のクロロフィルa濃度が植物プランクトン量の指標として用いられます。
プランクトン
水中を漂って生活する生物の総称。光合成をおこなうものを植物プランクトン、他の生物を捕食するものを動物プランクトンと呼びます。
ピコ植物プランクトン
サイズが0.2~2マイクロメートルの極めて微小なプランクトンをピコプランクトンと呼び、その中で植物性のものをピコ植物プランクトンと呼びます。サイズが小さく、普通の顕微鏡では見ることができないため、蛍光顕微鏡という特殊な顕微鏡を使って数を数えます。
ベントス
湖底に生息する底生動物のことを指します。沿岸域に生息する二枚貝や巻貝、沿岸域から沖合の湖底まで生息するイトミミズやユスリカの幼虫などが代表的な底生生物です。摩周湖には二枚貝や巻貝は生息しておらず、ユスリカの幼虫の分布密度も低いようです。
ウチダザリガニ(Pacifastacus leniusculus)
シグナルザリガニとも呼ばれ、北米原産の淡水性ザリガニ。繁殖能力が強く、水草の切断、魚類や底生生物の捕食、泥の撹乱を通じて生態系に甚大な影響を与えることから、特定外来生物に指定されています。摩周湖にも生息しています。研究・調査目的でウチダザリガニを採集する際は、殺傷してから持ち帰るなどの措置を徹底しています。2016年には、水深210mの暗黒の湖底から、生きたウチダザリガニを捕獲することができました。
BHC
ベンゼンヘキサクロライドの略。1825年に合成された有機塩素化合物群で、性質の異なるいくつかの異性体があります。1941年に殺虫力のあることが発見されて以来、DDTとともに農薬として世界的に広く使用されましたが、日本では昭和46年以降は農薬としての使用が禁止されています。動物実験で発がん性、変異原性が認められています。
多環芳香族炭化水素(PAH)
炭素と水素からなるベンゼン環のような環状をした分子が複数つながった一群の物質を多環芳香族炭化水素(PAH)と呼びます。もっとも簡単な多環芳香族炭化水素は防虫剤に使われるナフタレン(環が2個)です。主に燃焼によって生成するため、燃焼起源の指標物質になります。発ガン性や変異原性を持つものが多く、ベンゾ[a]ピレン(環が5個)は、代表的な発ガン性物質です。
VOC
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound)のことです。主に溶剤などに用いられ、室温で揮発性が高いため、室内や大気中に拡散し、吸入による曝露が問題となったり、地下水汚染を引き起こしやすい物質です。そのため、11物質に環境基準が設けられています。代表的なVOCには、ベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン(トリクレン)、テトラクロロエチレン(パークレン)などがあります。シックハウス物質として知られるホルムアルデヒドもVOCの一種です。
PFC
長い炭素鎖に結合している水素がフッ素で置きかえられた一群の化合物です。代表的な物質にPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)があります。かつてはスプレー式の撥水剤に使われていたり、フッ素樹脂の製造に欠かせない身近な化学物質です。環境への残留性が高く、環境汚染物質として認識されて以降、使用の制限、代替品への転換が進みつつあります。
ストックホルム条約
ストックホルム条約は、残留性有機汚染物質条約もしくはPOPs条約とも呼ばれている国際条約です。その目的は、環境中で残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、地球規模の汚染拡大が懸念される有機汚染物質の減少であり、それらの製造・使用・輸出入の禁止または制限を定めた条約です。BHCはPOPs条約の新たな対象物質に追加されました。
水俣条約
水銀に関する水俣条約(水俣条約)は、水俣病をはじめ世界各地で健康被害を引き起こしている水銀の汚染拡大を防ぐために、2017年に発効した国際条約です。環境中の水銀は残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、地球規模の汚染拡大が懸念される重金属であり、新興国を中心として環境への排出量が増加傾向にあります。そのために、水俣条約によって採掘から流通、使用、廃棄にいたるまでの水銀の移動量等を把握し、適正な管理をはかるとともに、排出量の削減を行うものです。
食物網
ミジンコなどの動物プランクトンは、小魚に捕食され、小魚は大型魚に捕食されます。このように「食う-食われる(捕食-被食)」の関係を食物連鎖といいます。実際の生態系では、食物連鎖が一本の鎖のようにつながっているのではなく、それらが複雑につながりあって網目状になっています。これを食物網といいます。
安定同位体
自然界に存在するすべての物質は、その最小構成単位である原子の組み合わせによって構成されています。原子は原子核とその周りを回るマイナスの電気をおびた電子で構成されており、さらにその原子核はプラスの電気をおびた陽子と電気をおびていない中性子で構成されています。一般的に、元素の原子番号は陽子の数、そして原子の質量は陽子と中性子の総数で定められます。同位体とは、同じ原子番号で同じ化学的性質を保持しながら、中性子の数が異なるために、質量が異なる元素のことを意味します。安定同位体とは、およそ1,700種類ある同位体の約15%を占めており、自然界においてその構造が安定しており、存在量がほとんど変化しない同位体のことを意味しています。
底質
陸水学では、湖沼や海洋などの水の底にたまった泥のことを底質(ていしつ)と呼びます。湖底堆積物も同じ意味です。水質と違って特に質の良し悪しを意識していません。一方、地図の分野では、錨の利き具合に影響する砂や泥といった表層の土質を指して使われるようです。
大気降下物
大気中にある物質は地表や植物などに降下、沈着しています。これを大気降下物と呼びます。雨などに取り込まれて大気から落ちてくる湿性降下物や、ガスなどがものの表面に付着する乾性降下物の二種類があります。摩周湖では電源の確保が困難なため、大気降下物サンプラーによってその両方を採取しています。
流跡線解析
流跡線解析とは、過去の風向・風速・気温等の気象データをもとに、ある地点の空気塊がどこからどこを通って移動したかを流跡線解析プログラムを用いて計算する方法です。時間をさかのぼって空気塊がどこから来たかを調べる場合と、時間経過とともに空気塊がどこへ流れて行くかを調べる場合があります。