標準ガス管理開発

部屋の換気度合いを見るためなどに、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を表示する計測器は、近年身近なものになりました。ただその計測器が表示する値は、実は大雑把なもので、同じ種類の計測器を横に並べて測定しても、それぞれ違った値を示すこともよくあります。研究に使用する計測器は、もっと正確(そして高額)なものですが、それでも大気中で約0.04%のCO2は、更に二桁下のオーダーで増減するので、それを調べるためにはいくつもの工夫が必要です。その一つは、計測器とは独立した正確な物差しを利用することです。ガス測定のための物差しとは、成分の濃度が正確にわかっているガス(標準ガス)のことになります。

独自の高精度標準ガス

国立環境研究所では、温室効果ガス観測に独自の標準ガスを使用しています。国立環境研究所(NIES)の物差し(スケール)なのでNIESスケールと呼びます。大気中の温室効果ガスは、わずかな変動を長期的に正確にとらえる必要があるので、変化しない正確な基準が必須です。ただし、変化しないことを自前の標準ガスだけで判断することは難しいことがあり、国内・海外で同様の観測を行っている機関のスケールと相互に比較し、お互いの関係が変化していないかチェックしています。

図1は、世界気象機関(WMO)主催の高圧ガスボンベ巡回比較実験(Round Robin 5, 6)の結果から、NIESスケール(09 scale)とWMOスケール(X2007)の差を表しています。両スケールが0.1 ppm以内で一致していることがわかります。ただ2021年にWMOスケールに修正が入り、両者の差が変わったことが分かっています。長期的な関係性も含め、相互比較を継続しているところです。

世界気象機関(WMO)主催の高圧ガスボンベ巡回比較実験(Round Robin 5, 6)の結果から、NIESスケール(09 scale)とWMOスケール(X2007)の差
図 NIESスケール(09 scale)とWMOスケール(X2007)の差

標準ガスの種類

標準ガスの作り方図
一次標準ガス
キログラム原器のように最も基準となるガスです。シリンダ(高圧ガスボンベ)に純粋なCO2と精製した空気を順に充填し、それぞれ高精度天秤を使用して質量を精密に測定します。測定したCO2と空気の質量から標準ガスのCO2濃度が求められます。国立環境研究所では250 ppmから530 ppmまでの濃度の異なる標準ガスをこのように作成し、それを基準に、容器内での濃度変化が起きない(非常に小さい)と確認されている10本の標準ガスを一次標準ガスとしています(NIES 09 scale)。
二次標準ガス
一次標準ガスは天秤で質量を精密に測定することから、小さなシリンダで作成します。しかも長期間にわたり観測の基準としますので多量に消費するわけにはいきません。そこで、大きなシリンダの標準ガスを作成し、一次標準ガスを基準に精密に較正(分析)し正確な濃度を求めて二次標準ガスとします。いわば、一次標準ガスのコピーです。
現地観測用標準ガス
観測に合わせていろいろな濃度、容量のものが作られます。この現地観測用標準ガスが、航空機による観測にも、陸上での観測にも、船舶による観測にも用いられます。現地観測用標準ガスは簡易的に作ったガスを、二次標準ガスを基準にして較正し正確な濃度を求めたもので、その後、観測現場に運び込みます。