熱帯林の機能


木材生産機能

材木や紙の原料としての木材を供給する機能です。木材生産機能は生物資源生産機能の一つですが,森林の持つ公益機能(=エコロジカルサービス)の中には含まれません。フタバガキ科植物(日本ではラワンとして知られている)は東南アジアの有用木の大半を占めていますが,伐採やプランテーションの開発などにより,天然林は非常に少なくなりました。またフタバガキ科の多くは,数年に一度しか種子をつけないものが多く,休眠性がないため種子のストックが困難です。このため人工的に森林を再生する場合,多くのコストを要します。

なお熱帯林は紙の原料となるパルプの原産地ではありませんが,アカシアなどがパルプ材として植林されています。従来からあった天然林に代わり新しい植生が生まれるわけですから,これまでの生態系とは大幅に変わる可能性があります。

多様性保全機能

全生物種の半数以上が生息するといわれる熱帯林は,生命体の宝庫であり,また遺伝子の宝庫でもあります。実際に,現在使われている薬剤には熱帯由来のものがたくさん存在します。1992年5月には「生物多様性条約」がつくられました。この条約は,生物が生活する上で豊かな環境をつくること,遺伝子資源の利用から生まれる利益について産出国や利用国の間で公正に配分すること,などが重要であるとの考えのもとに,世界的に生物多様性を保全していこうというものです。日本は1993年5月に批准しており,2002年1月時点で締結国は182カ国です。この条約には先進国の資金により 開発途上国の取組みを支援する資金援助,先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力もあり,経済的・技術的な理由から,生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組みが十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっています。

CO2吸収蓄積機能

成長期の若齢林は,個々の樹木の成長が著しいために盛んにCO2を吸収します。ただし倒木など枯死した木はCO2を放出するので,老齢木の割合が高い成熟林のCO2の収支はゼロといわれます。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第3次報告書(政策決定者向け要約)によれば,過去20年間の人為的起源による二酸化炭素の大気への排出のうち約3/4は化石燃料のもので,残りの大部分は土地利用の変化,とりわけ森林の減少である,ということです。

集水域保全機能(水・土壌保全機能)

熱帯では短い間に激しい雨が降り,洪水や土壌浸食による災害の原因になります。これまでのマレーシアでの調査では,森林土壌は強い降雨でも吸い取ってしまう大きな浸透性を持ち,地表には水流がほとんど発生しないことがわかりました。また,熱帯林土壌が洪水をやわらげる大きな働きを持つことも明らかになりました。このほか集水域保全として,水質の浄化,土壌流出の防止,山崩れ防止など河川,湖沼,沿岸域などの海域を含めた生態系の保全機能があげられます。

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