有害紫外線ネットワーク概要(2021年度で終了)

有害紫外線ネットワーク

有害紫外線モニタリングネットワークは、国内の16機関21サイトが参加し平成12年度に発足しました。 国内の帯域型紫外線計によるUVモニタリングサイトの参加を広く得ることにより、広域的なモニタリング体制の構築を目指しています。 参加拠点は、原則として同一仕様の測器・データ取得方法によって長期モニタリングをしていることを条件としています。 そして、地理的条件や疫学調査との関連等を考慮してネットワークを構築し、幅広い協力関係を得ながら漸次参加拠点を増やし、測点密度の向上を図っていくことを計画しています。
本ネットワークは、国立環境研究所研究者を代表者とし、地球環境研究センターが事務局として運営にあたっています。 加えて、ネットワークの運用や集約されたデータの評価などを審議するために、運営委員会を設置するとともに、ネットワークを円滑に運用するためにネットワーク参加機関から構成される担当者会議を定期的に開催しています。
地球環境研究センターではネットワーク事務局として、各モニタリングサイトでの精度管理のために、測定機器の定期的な校正と測定データの検証を行なうとともに、 ネットワークの参加機関が相互に利用できるようにデータやシステム情報を管理しています。なお、各参加機関で測定されたデータは、原則として各所属機関に帰属していますが、 当ネットワークで検証/補正されたデータは当ネットワークに帰属し、一定期間を経過した後は公表・提供を行います。

有害紫外線とは

紫外線は殺菌灯として利用されるように滅菌作用があったり、日焼けの原因になったり、あるいは体内でビタミンDを作ったりと、生物の生存にかかわる大きな環境因子です。
この紫外線は生物体に及ぼす影響の相違から、波長315nm〜400nmのA領域紫外線(UV-A)、波長280〜315nmのB領域紫外線(以後、 UV-B)、および波長280nm以下のC領域紫外線(UV-C)に分類されます。 UV-Bは、オゾン層の破壊の影響をもっとも強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、「有害紫外線」と呼ばれることもあり、肌表面に強く作用し赤く炎症を起こすほか、皮膚癌や白内障などの疾患を引き起こす原因にもなっています。
国連環境計画(UNEP)の報告では、オゾン量が10%減少すると、UV-B量が12%増加し、白人では皮膚癌の発生率が20%(17-30%)増加すると分析しています。このUV-Bの生物影響の強さは、波長により異なり、短波長ほど大きくなります。 しかし、生物影響の強い短波長側のエネルギー量は長波長側の1/100以下ときわめて小さいものです。なお、UV-Aはオゾン層にほとんど吸収されないのでオゾン層の変化には影響されません。 また、UV-C はオゾンや酸素により吸収されるので殆ど地表面には到達しません。

有害紫外線をはかる

成層圏オゾン層の保護に関しては、フロン類の製造中止など実行的な行政施策が世界的に進展していますが、最近の南極オゾンホールの発生状況をみても、成層圏オゾンの量やオゾン破壊物質の量の長年にわたる観測結果からみても、 オゾン層破壊物質の濃度は低減傾向にあるとはいえ成層圏オゾン濃度の回復傾向は認められないことなどから、地上に到達するUV-B量が増加傾向にあることが推測できます。
しかし、実際にオゾン破壊により生じるであろう人間を含む生物に作用する有害紫外線量の評価、モニタリングは十分とは言えません。 特に、地表への到達量とともに、人間を含む全生物に対する有害紫外線暴露量の把握が、生物影響の評価・予測の基幹となります。
紫外線を測る方法には大別して2種類あります。一つは分光型紫外線計と呼ばれるもので波長別にエネルギー強度を測定するものです。 他は帯域型紫外線計と呼ばれるもので、UV-AやUV-Bそれぞれの波長範囲のエネルギー量を測定するものです。
分光型紫外線計による観測は、世界気象機関(WMO)の世界的なネットワークの下で推進されています。わが国では現在、気象庁が国内4地点で観測を行っており、その結果はオゾン層監視レポートとして毎年刊行されています。 国立環境研究所では北海道陸別町で観測を行っています。しかし、この波長別観測では、測器の分光型紫外線計が高額であり、かつ保守管理が難しいことから、広範囲な観測体制が構築されるには至っていません。
一方、全国の大学や試験研究機関・民間団体などでは、紫外線暴露による健康影響や生物影響に関する調査研究等のために、それぞれ帯域型紫外線計を用いて UV-A量、UV-B量を観測しています。 この測器は前掲の分光型紫外線計とは異なり、波長別強度は測定できませんが比較的安価で保守管理も容易であり、わが国内で数多く普及しています。 しかし、これまで拠点間相互の情報交換や共同での解析などでは行われておらず、観測の精度管理やデータ処理手法などが統一されていない状況にあります
そこで、これらの観測機関が連携して有害紫外線に係わる観測情報の収集と共有を行う「有害紫外線モニタリングネットワーク」を構築し、 UV-Bの地上到達量の全国的な把握や紫外線暴露による健康影響の評価などをはじめ、様々な形でその観測データの活用を図ることとしました。 国立環境研究所では、茨城県つくば市を始め、沖縄県竹富町、北海道根室市、北海道陸別町の4箇所で観測を行うとともに、モニタリングネットワークの事務局として活動を行っています。 特に、陸別町に設置している分光型紫外線計は当モニタリングネットワークの基準を維持するためにも活用しています。

精度管理

有害紫外線モニタリングネットワークで使用しているB領域紫外線計の精度は、『有害紫外線モニタリングネットワーク活動報告』の6章に詳しく記載しています。 基本的にこの測器は、年間で-5%以内の感度劣化をしていることが分かっています。この劣化は、日本国内での通常使用において起こり、徐々に進行します。 一方、測器の汚れや干渉フィルターが想定外の高温にさらされることによる急激な感度変化が起こる場合があります。 更に、帯域型の紫外線計は、太陽光のスペクトルが変化すると感度も微妙に変化します。 つまり、感度が季節変化をするということです。これは測定原理に由来する誤差であり測器の特徴でもあります。 このような複雑な事情に対応するために当ネットワークでは、精度管理を2つのカテゴリーに分けています。

  1. 絶対照度の確認と季節変化の把握
  2. 異常データの除去

それぞれのカテゴリーでの取り組みを以下で説明します。
先ず、1)の絶対照度の確認です。B領域紫外線計に絶対照度を付与することは、校正を行うメーカーの役目です。 しかし、帯域型紫外線計を校正する国際的な基準(取り決め)がない現在、メーカーの基準がユーザーの求める精度に満たない可能性があります。 そこで、ユーザー自身で基準を確認する必要が出てくるのですが、その為には基準となる測器が必要です。 当ネットワークで最も高い測定精度を維持している基準器は、陸別局に設置されているブリューワー分光光度計(写真中央)です。(写真右上一番手前の小さな測器がB領域紫外線計です。)
ブリューワー分光光度計は大変複雑な測器で、校正にも熟練した技術や知見が要求されます。そこで当ネットワークでは、気象庁高層気象台に全面的にご協力・ご助言いただいています。 ブリューワー分光光度計の詳しい解説は、高層気象台の『紫外域日射観測』のページを参照してください。
ブリューワー分光光度計のデータとB領域紫外線計のデータを比較することで、B領域紫外線計の季節変化の様子と基準値のずれが分かります。 B領域紫外線計の感度が季節変化することは前述の通りですが、季節変化が大きい場合や基準値がずれている場合はメーカーに連絡し、メーカーの基準を確認して頂くなどの対策を講じています。 しかし、B領域紫外線計には大きな器差(測器毎に特性が異なる事)があるため、ネットワーク参加局の全ての測器についてあてはまる訳ではありません。 今後ともB領域紫外線計の比較データを集め、器差の特徴や精度管理に活かしてゆく必要があります。
次に、2)の異常データの除去です。データの処理手順を含め除去の方法等は『有害紫外線モニタリングネットワーク活動報告』の5章に記載しています。 当ネットワークの異常データ処理方法の特徴は、B領域紫外線計ばかりでなく、A領域紫外線計、全天日射計のそれぞれの同時刻データの比較を基本としています。 測器の汚れや電気系のトラブルはデータを比較することで容易に発見することができますし、B領域紫外線量の短時間の欠測はA領域紫外線量から推定し補間できる場合があります。 相互に監視し、相互に補間することで一定の精度を維持することができます。