摩周湖について

霧の摩周湖と透明度

第一展望台から見た摩周湖面

第一展望台から見た摩周湖面

摩周湖は北海道の東部、阿寒摩周国立公園内にある湖で、道東を代表する観光地です。写真のようなアングルで記念撮影をされた方も多いと思います。この写真が撮られた第一展望台のほか、摩周湖には第三展望台、裏摩周展望台の3ヶ所の展望台があります。さらに、摩周岳(カムイヌプリ)への登山道から摩周湖を望むことができます。しかし、国立公園の特別保護地区である摩周湖面へ降りることはできません。もちろん、集水域内に耕作地も人工の施設もありません。

このように摩周湖面に容易にたどり着けないのは、摩周湖がぐるりと深い崖に囲まれたクレーターのような地形をしているからです。摩周湖は、約7,000年前の摩周火山の大噴火によって陥没したカルデラ凹地に水がたまって形成されたもので、その後の火山活動により湖の東側に大きな摩周岳と、湖の中央に小さなカムイシュ島が作られました。日本にある大きな湖沼の中でも若い湖であり、流れ込む川も、流れ出す川もない閉塞湖です。

図1 第一展望台から湖面が見えた割合

図1 第一展望台から湖面が見えた割合

摩周湖を見ようと、せっかく外輪山を登って展望台に着いても、あいにくの霧で湖面が見えないことがあります。「霧の摩周湖」というように、摩周湖では霧が代名詞のようになっています。ところが、第一展望台から湖面が見えた割合(1986年~2002年のべ3,510日)を長期間にわたって調べてみると、たしかに夏場には霧がかかることも多いのですが、年間を通してみると8割程度の日で湖面が見えることがわかります(図1)。長い間の観測データを積み重ねると、印象とは違った事実がわかってくる一例です。

霧に加えて、摩周湖はその透明度の高さ、その清澄さでも知られています。遠く離れた展望台から青く澄んだ湖面をながめるため、いっそう神秘さが増すように感じるのですが、実際に日本各地の湖沼とくらべて透明度は高いのでしょうか。

図2 透明度の高い湖沼の長期データ比較

図2 透明度の高い湖沼の長期データ比較

これもデータで比較してみましょう。図2に透明度の高い湖沼について、1981~2006年までの26年間の透明度の平均値とその値の分布を調べた結果を示します。摩周湖を除いて、公共団体が水質データを継続的に採取しています。個々の観測値では支笏湖などの透明度が摩周湖をしのぐことはありますが、長期データを比較すると、摩周湖の透明度の高さが傑出していることがわかります。また、摩周湖は年間を通じて透明度が悪くなりにくい(最低値が出ない)ことも特徴です。摩周湖に次いで、支笏湖、倶多楽湖、洞爺湖といった北海道にあるカルデラ湖がならんでいます。地理的・気候的な要因や地形的な要因が透明度に関係する可能性があります。

図3 摩周湖における透明度の経年変化

図3 摩周湖における透明度の経年変化

このような地形的な特色と周辺の環境保護によって、摩周湖は日本の数多い湖沼中もっとも人為的汚染の影響が少ない湖と考えられます。実際、かつては世界一の透明度(41.6m、1931年)が報告されています。それでは、長期的な透明度の変動はどうなっているでしょうか。先ほどのデータを時間を追って示すと、図3のようになります。長期的に見ると、透明度が低下しつつあるように見えます。透明度が何によって決まっているのか、季節変化はどうなっているのか、透明度の低下の原因は何であるのかといったことが研究課題になります。

表1 摩周湖の諸元*1

項目摩周湖
成因カルデラ湖
湖面標高(1982/9/11)352.26m
水深(平均)145.9m
水深(最大)212m
湖面積19.6km2
湖容積28.6億m3
流域面積32.4km2
湖岸線長20km

*1 理科年表(丸善)や地形図(国土地理院)による

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図4 摩周湖の位置

GEMS/Waterベースラインモニタリング

霧や透明度ばかりではありません。湖水に含まれるさまざま物質や生物の種類や量についても重要な観測の対象です。摩周湖は長期的なモニタリングを行う観測点として、以下のような優れた特徴があります。

  • 遠隔地にあり国立公園特別保護地区として保護 = 近隣の人間活動の影響が小さい
  • 湖面積に比べて集水域面積が狭い = 大気経由の広域汚染を示しやすい
  • 年2回湖水の循環が起きる = 前年の状態がリセットされ、観測データの合理的解釈が可能

そのため、摩周湖は、汚染の極めて少ない状態を観測するGEMS/Waterベースラインモニタリングステーションに、日本の湖沼で唯一登録されています。GEMS/Waterとは国連環境計画(UNEP)や世界保健機関(WHO)などの国際機関によって進められている地球環境監視システム(GEMS)の陸水監視部門で、地球全体をカバーする唯一の淡水水質監視プロジェクトです。日本のGEMS/Water 窓口は生物多様性領域が担当しています(2011年度に地球環境研究センターから移管されました。)。摩周湖の長期モニタリングデータの一部は、GEMS/Waterベースラインモニタリング地点データとしてドイツ本部へ報告され、世界の湖沼データとならんで記録されています。